世界思想

不毛な「ジェンダー摩擦」に終止符を〜「男性差別」を訴える若者たち〜

aap_heiwataishi

不毛な「ジェンダー摩擦」に終止符を〜「男性差別」を訴える若者たち〜

ニューヨーク・タイムズのコラムでジャーナリストのニコラス・クリストフが結婚の価値について書いた時、多くの女性読者が否定的に反応し、「男性は本当に手がかかる。彼らは子供っぽい」と嘆くコメントが支持を集めた。全体的に「結婚にメリットがあるのは、ケアしてもらう側の男性だけ」という意見が目立ったという。

クリストフは、女性たちの意見に正当性を認め、「私たち男性は努力を怠ってはいけない」と自戒した。そのうえで彼は、先進国全体で広がりつつある男女間の政治、文化、社会的な分断について言及した。

男性に広がる「被差別感」

様々な調査を見ると、先進国では若い女性が急速にリベラル化する一方で、男性の変化は比較的緩慢であるため、男女の価値観のギャップが拡大している。一方で、男女平等を支持する男性も増えており、「若い男性」を一括りにして「保守化している」と決めつけるのは早計だ。

ただ、いくつかの注目すべき傾向もある。その1つが「女性よりも男性の方が差別されている」という感覚の増大である。

たとえば2023年に「エクイムンド」が全米で18〜45歳の男性2022人を対象に実施した調査では、「今日の米国では男性の方が女性よりも苦労している」と答える割合が半数を超えた。また韓国ではこうした感覚が政治的な動きとしても顕在化し、22年の大統領選では、尹錫悦陣営の反フェミニズム的な公約が注目を集めた。同国では若年男性の8割が「男性差別」を感じているという。

女性は男性に、男性は女性に不満、怒りを抱いているようだ。クリストフは、こうしたジェンダーの摩擦(まさつ)が若い男女の距離を遠ざけ、さらなる非婚化と孤立につながるのではないかと危惧している。

「夫婦喧嘩」と次世代への悪影響

考えてみれば約半世紀の間、先進諸国では男女の対立構図が強調されてきた。フェミニズム運動は女性の地位向上に一定の役割を果たしたが、一部の過激な運動家が、男性や結婚制度に対して過度な敵意を煽(あお)ったことも事実である。家庭にあてはめると、母親が不誠実な父親を罵(ののし)り、結婚への不満を述べ立てる状況が数十年にわたって続いたようなものだ。そして、ここに来て父親の側からの反撃が始まっている。不毛な争いと言わざるを得ない。

夫婦喧嘩(げんか)は子供の心に傷を残し、結婚観にも負の影響を及ぼす。ちなみにMLBで活躍する大谷翔平選手の両親は、子供の前では喧嘩しなかったという。男女の格差問題を論じる際にも、次世代の視線を意識すべきだ。そうすれば自然と対立・葛藤よりも、協調・和解が基調となるだろう。

※世界思想2024年9月号『談論風発』より

記事URLをコピーしました