世界的人口減少が始まる 〜経済危機で国際情勢も不安定化〜
世界的人口減少が始まる 〜経済危機で国際情勢も不安定化〜

日本は既に長期的な人口減少局面に入っているが、他の東アジア諸国でも出生率(合計特殊出生率)の低下が著しく、韓国、台湾、中国なども我が国と同様のコースを、より早いスピードでたどることが確実になっている。
ただ、これは東アジアでのみ起こっている例外的な現象ではない。欧米の先進諸国はもとより、サハラ以南を除く全世界的規模で、出生率の低下が顕著になっている。
途上国でも人口置換水準に届かず
昨年10月、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のニコラス・エバーシュタットが『フォーリン・アフェアーズ』に世界的人口減少について寄稿した。
出生率の低下についてはトルコやインドのような国でも人口置換水準2.1(国によって多少異なる)前後まで低下しており、特に都市部ではイスタンブール1.2、コルカタ(カルカッタ)1.0など先進国の主要都市を下回る水準まで落ち込んでいる。
東南アジアでも出生率が1前後にとどまるシンガポールを筆頭に、マレーシア、ベトナム、フィリピン、さらにインドネシアも2022年には人口置換水準を下回った。タイでは既に人口減少が始まっている。
カリブ海諸国を含む中南米も例外ではなく、国連警察(UNPD)推計では地域全体の2024年の女性一人当たりの出生率1.8人と試算されている。
これらの国々の多くは、経済発展の途上にあり、福祉制度も十分に整備されていない。さらに中国を含むこれらの国々では、大家族の互助機能が社会保障制度を代替していたが、家族の衰退によって、そのセーフティネットすら危うい状況だ。貧困と高齢化・人口減少が同時に起これば、深刻さの度合いは日本の比ではないだろう。
ちなみに20年前、全世界の高齢者(65歳以上)人口は約4億人だったが、2050年には14億人に達する。後期高齢者も爆発的に増加し、病気や認知症、孤独に苦しむ老後への対処も各国で切実な課題となる。
国際情勢にとってもリスク要因
唯一の例外であるサハラ以南は現在の人口こそ世界の約1/7だが、出生率では1/3を占める。問題は、この地域の若年層の94%が基本的スキルを身に着けていないということだ。
適切な教育・訓練がない限り、これらの国々が優秀な労働力や、活発な消費市場を提供するようになるとは考え難い。現在、世界GDP(国内総生産)の多くを担う先進国が、人口減少局面にあることを思うと、世界経済の見通しは明るいとは言えない。
当然のことながら、経済的な危機は内乱や戦争の危険性を高める。世界的少子化への対応も喫緊の課題なのである。