世界思想

選択的夫婦別姓|「強制的親子別姓」子供への影響重視せよ

aap_heiwataishi

選択的夫婦別姓|「強制的親子別姓」子供への影響重視せよ

「(選択的夫婦別姓制度を)やらない理由が分からない」

9月の自民党総裁選挙でこう語ったのは、石破茂氏だった。同じく総裁選の候補であった小泉進次郎氏の言及が、あえて「争点化」した感は否めないが、「選択的夫婦別姓」に改めて注目が集まった。

首相に就任した石破氏は、10月8日の参院本会議の代表質問で選択的夫婦別姓について、「家族のあり方の根幹にかかわる問題だ。政府としては国民各層の意見や国会での議論の動向を踏まえ、必要な検討を行う」と述べた。「政府としては」と、岸田文雄前政権など従前の「慎重姿勢を踏襲した」と言えよう。

司法判断、世論調査などは慎重意見が大勢

6月に選択的夫婦別姓制度の早期導入を政府に求める提言を発表した経団連に対し、本誌先月号(10月号)のコラム「情報スキャン(国内)」でも、「経団連は『通称使用』の拡大に注力せよ」と、「夫婦別姓の議論再燃」を取り上げた。一方で、共同通信社が8月、主要企業111社に実施したアンケートによると、「(選択的夫婦別姓制度を)早期または将来的に実現すべきだとする企業は21%だった」(共同通信8月24日配信)。共同は、経団連の提言公表を踏まえ、「個別企業では慎重な姿勢が根強く、無回答も目立つ。経団連とは温度差があり、浸透の取り組みが課題となる」と指摘した。

また、東京都や長野県などの男女10人が原告となり、「夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は個人の尊重を定める憲法に違反し無効だ」とする「夫婦別姓訴訟」が現在進行中だ。しかし同様の訴えに対して、最高裁が2度(2015年、2021年)、「合憲」の判断を示している。以下に2つの判決(要旨)の一部を引用しよう。

「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。(中略)子の立場としていずれの親とも等しく氏(注:姓)を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる」(2015年12月)

さらに2021年6月の判決でも、「いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化といった原判決が認定する諸事情等を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない」と。

最高裁は姓のあり方について、「国の伝統や国民感情を含めた社会状況における様々な要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての総合的な判断によって定められるべきだ」(2021年)とした。極めて妥当な判断だ。

では、肝心の「国民感情」、「国民各層の意見」を確認しよう。内閣府が2021年12月から翌1月にかけて実施した「家族の法制に関する世論調査」(有効回答数2884人)が最も信頼に値するだろう。

「選択的夫婦別姓制度」への質問では、選択肢が3つ、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」が27.0%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」が42.2%と、「夫婦同姓制度」維持が合わせて約7割(69.2%)に達した。一方で「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」は28.9%に留まる。

この調査の他にも、朝日新聞や、推進派団体などによる調査結果がある。しかし、これらの調査は「旧姓の通称使用」を選択肢から除くなど、選択的夫婦別姓「賛成」の割合を大きく見せようという意図が認められるため、注意が必要だ。

子供の福祉のために家族制度の基本を守る

内閣府の調査に話を戻す。家族の「姓のあり方」は本来、「子どもへの影響」を何よりも重視しなければならないはずだ。この点について、「子どもにとって好ましくない影響があると思う」が69.0%と、なんと約7割もの国民が懸念を抱いている(「子どもに影響はないと思う」は30.3%)。

関連して、「別姓夫婦の子どもの名字・姓」について、「きょうだいの名字・姓は同じにするべきである」が63.5%に対し、「異なってもかまわない」は13.8%。1996年から数年ごとに行われてきた同調査で、「(こども同士の名字・姓が)異なっても構わない」が15%を超えたことはない。

NHK放送文化研究所が、中高校生を対象に実施した世論調査(2022年7〜8月、有効回答数1183人)にも注目したい。「結婚後、名字をどのようにしたいか」との質問に、「自分も相手も、名字を変えずにそのままでいたい」と夫婦別姓を希望したのは、中学生7.0%、高校生6.1%に過ぎなかった。

以上のような調査結果からも、「国民感情」や「国民各層の意見」が明らかに見て取れる。現実的な対応策としては、「旧姓の通称使用」が有力だ。

たとえば、自民党総裁選に立候補した加藤勝信氏は、産経新聞のインタビューに次のような明快な回答を提示している。

「(旧姓の)通称使用だけでは不便だというケースも承知しており、『旧姓続称制度』を提案した。法律に旧姓使用を書き込むことで政府のさまざまな手続きで『旧姓でよい』という形にする。家族制度の基本はしっかり守り、今ある不都合を解消していく」(産経新聞9月14日付)

こども家庭庁が「こどもまんなか」を掲げるように、子供の福祉を最優先に考えるならば、「強制的親子別姓」になりかねない選択的夫婦別姓は問題だ。他にも夫婦別姓・親子別姓を「やるべきでない理由」はさまざまにある。与野党の国会議員には、現在の社会全体をよく見渡しつつ、子供の福祉を最優先に熟慮いただきたい。

世界思想2024年11月号「今月の1テーマ」より

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