赤報隊事件 | 「虚報」の責任は重い 事実に基づいた言動を
赤報隊事件 | 「虚報」の責任は重い 事実に基づいた言動を
「セキホウタイ」事件? どんな事件なのかと訝(いぶ)しがる方もいるだろう。37年前の事件を知る方は、なぜ今なのかと不審に思うに違いない。実は、またぞろ「赤報隊事件」が注目を集めようとしているのだ。
この事件について、近年出版された書籍の中で最も包括的に書かれた、元朝日新聞記者の樋田毅(ひだつよし)氏による『記者襲撃』(岩波書店、2018年2月)から引用しよう。
「1987年5月3日に兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局が散弾銃を持った目出し帽の男に襲われた。当時29歳の小尻知博記者が射殺され、当時42歳の犬飼兵衛記者が重傷を負った。この事件を含め、約3年4カ月の間に計8件起きた『赤報隊』による襲撃・脅迫事件は、2003年3月にすべて公訴時効となった。記者が国内で政治的テロによって殺された事件は、日本の言論史上、ほかにはない」
本書の出版に合わせて、2018年1月末、テレビ番組「NHKスペシャル未解決事件」の実録ドラマで、草彅剛(くさなぎつよし)氏が著者の樋田記者を演じ話題を呼んだ。赤報隊事件はまさに「未解決事件」であり、いまだ犯人の特定に至っていない。樋田氏は本書で、「見えない赤報隊を追い続ける。それが、私の記者人生を賭けた使命だと思い定めてきた」という。2人が殺傷され、世間を震撼(しんかん)させた凶悪事件だ。真実追求のために、今も事件を追い続ける樋田氏には感服するが、その取材対象には、UPF-Japan・平和大使協議会の友好団体でもある旧統一教会(世界平和統一家庭連合)や国際勝共連合も含まれていた。
「結びつける証拠はない」
「とういつきょうかいのわるくちをいうやつはみなごろしだ」
朝日新聞阪神支局襲撃事件から3日後の5月6日、同新聞東京本社に届いた脅迫状の文面だ。当時の統一教会広報部長が「ひどい濡れ衣だ。わが教会を陥れようとする者の仕業ではないか」と回答したように、この文章からは、教団に疑惑を向けさせようとする悪意を感じるのが普通だろう。
しかし、当時から朝日新聞や週刊誌「朝日ジャーナル」と、教団や勝共連合との「緊張関係」が指摘されていたこともあり、関係者の関与を疑う声が一部に存在していた。樋田氏も『記者襲撃』の中で、1つの章(「ある新興宗教の影」)を割いて、教団や勝共連合について言及している。
ちなみに、「赤報隊事件30年目の真実」との副題が付けられた本書の結論は次のようなものだった(「取材対象者への配慮」から、統一教会は「α教会」、勝共連合は「α連合」と表記されている)。
「α教会・α連合と朝日新聞社の間には、前述のように緊張関係は間違いなくあったが、一連の朝日新聞襲撃事件に関わったとされる『証拠』があるわけではなかった」「繰り返して述べてきたように、赤報隊による一連の事件とα教会を結びつける証拠はない」「30年間に及ぶ取材にもかかわらず、事件をめぐる謎は何一つ解明できていない」。これが「30年間に及ぶ取材」を通じて得られた樋田氏の「結論」だ。
憶測・妄想に基づく「虚報」
このような樋田氏が、8月20日、新たな著書を上梓(じょうし)した。『旧統一教会大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社)である。本書の1つの章には「赤報隊事件」が掲げられており、事件に関する大江氏の主張は、「Smart FLASH」インタビュー記事(8月6日配信)にも掲載されている。
「赤報隊事件には、統一教会の関連団体『国際勝共連合(以下、勝共連合)』を含め、信者が関係している可能性があると思っています。末端の信者の暴発がなかった、とは言い切れません」「犯行を指揮した人物は、教団関係者だった可能性が高いかもしれません」
明確な証拠や根拠を一切示さず、「可能性」という言葉で、単なる個人的な憶測、妄想を述べているに過ぎない。しかし、樋田氏からすれば、教団の「元広報部長」が自身の長年の疑惑を裏付けてくれる(?)のだから、「渡りに船」だったのだろう。
樋田氏はかつて、「赤報隊」に関する「週刊新潮」(2009年2月5日号)の誤報に対して、朝日新聞上で「事実に基づかない記事は、被害者の名誉を傷つけ、遺族の思いを踏みにじった。『虚報』の責任は、証言者だけでなく新潮社も負わなければならない」と厳しく批判した。この言葉は今、ブーメランのように樋田氏に突き刺さるのではないか。
「事実に基づかない」出版は、多くの関係者の名誉を傷つける。「虚報」の責任は、証言者(大江氏)だけでなく、樋田氏や光文社も負わなければならない。樋田氏にはジャーナリストとしての良心を取り戻してほしいものである。
なお、「朝日襲撃『赤報隊』の正体」と題して、昨年5月に発売された「文藝春秋」(2023年6月号)の巻頭記事が、「新証言」をもとに事件の真相に肉薄している。
25ページにもわたる長編記事だが、そこには「統一教会」や「勝共連合」に関する言及が一言もなかったことも付記しておきたい。
※『懺悔録』に関する国際勝共連合の「声明」はこちら。