世界思想

性別違和・トランスジェンダー | 日本人に今、必読の翻訳本

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性別違和・トランスジェンダー | 日本人に今、必読の翻訳本

「娘を持つすべての親、子供に心を寄せるすべての人にとって必読の書だ」マリア・ケフラー(ザ・フェデラリスト誌)

翻訳本『トランスジェンダーになりたい少女たちSNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』(産経新聞出版)が4月に発刊された。

原著『Irreversible Damage』は2020年に米国で出版され、英国のエコノミスト誌とタイムズ紙(ロンドン)で「今年最高の1冊」にも選出された。これまでに9カ国で出版。著者のアビゲイル・シュライアー氏(45)は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などに寄稿するフリーランスのジャーナリストだ。彼女は本書執筆に当たり、「200人近くにインタビューし、およそ50家族から話を聞いた」という。翻訳本を監訳した昭和大学医学部の岩波明特任教授(医学博士)は、「本書は、これまでの研究成果を紹介し、関係者にインタビューを重ね、さまざまな側面からトランスジェンダーの問題を取り上げている。ジャーナリストの作品だが、学術的にも非常に価値がある本だと思う」と述べている(産経新聞2024年4月4日付)。

この翻訳本が注目を集めたのは昨年12月だった。当初は出版大手のKADOKAWAが、『あの子もトランスジェンダーになったSNSで伝染する性転換ブームの悲劇』という邦題で刊行を予定。しかし、「トランスジェンダーへの差別を助長する」などの強い批判や抗議を受け、12月5日に刊行中止を発表した。その後、産経新聞出版で発刊することになったものの、発売直前の4月初め、「発売日(3日)に抗議活動として大型書店を放火する」といった脅迫メールが出版社に送り付けられた。

産経新聞は発売当日の社説で、「産経新聞社と産経新聞出版はこのような脅迫に屈しない。最大限の言葉で批判する。(中略) 翻訳本の内容に批判があるなら、それはあくまで言論でなされるべきである」と、正論で応じた。発売日に入手できない書店も一部あったようだが、自信を持って推薦したい1冊だ。

「性別違和の急増」に切り込む

本書は「ここ10年、西欧諸国で性別違和を訴える思春期の子供の数が急激に増えている」といった現実問題にフォーカスし、その「社会的伝染病」とも呼ばれる現象に深く切り込んでいる。「性別違和」とは、「自分の身体に対して心の底から絶えず苦痛をいだいている感覚」であり、自分の心と体の性が一致しない人々、「性別違和をもつ人々の総称」(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)が「トランスジェンダー」だ。

本書によれば、「米国疾病予防管理センター(CDC)が2017年にティーンエイジャーを対象に行なった調査では、高校生の2パーセントが〝トランスジェンダー〞を自認している」。英国では2018年に、「ジェンダー医療を望む10代の少女の数が、過去10年のあいだに4400パーセント増加した」。さらに、スウェーデンやフィンランド、カナダなどでも、「性別違和を訴える子供の数が急激かつ劇的に増えている」。

米国の心理学者ジョナサン・ハイト氏は、西欧諸国の10代の若者たちが「メンタルヘルス危機(クライシス)」に陥っていると指摘するが、本書にもその事実を裏付ける各種データが提示されている。性別違和・トランスジェンダー問題と、その「根底にあるメンタルヘルスの問題」についても、本書を通じて深く考察できるだろう。

「トランスジェンダーの大流行はおもに友人やメディアや学校によって引き起こされている」という考えを示したのは、米ジョンズ・ホプキンス大学のポール・マクヒュー教授(精神医学)だ。友人、メディア、SNS、スマートフォン、学校(教師)、医療(医師)・カウンセラーなどが、思春期の少女たちに強く影響を及ぼしている。著者のシュライアー氏も、「学区、教師、ほかの親たちまでもが、いまや子供たちの性自認に混乱を引き起こしている。その問題に立ち向かうために必要なのは、心理学の専門家ではなく、知識の装備だ。(中略)まずは事実を知ることだ」と訴える。

「欧米追随」の日本人に必要

米国ではすでに「幼稚園から高校まで公立校では、きわめて急進的で広範囲におよぶジェンダー思想(イデオロギー)を徹底的に教えこまれる」状況がある。本書には「ディトランジショナー」という、「医療処置で外見を変えてしまったものの、後悔して、もとに戻そうとしている」少女たちの、悲痛な声も掲載された。欧米に追随する現在の日本人にこそ、本書による「知識の装備」が必要だ。

娘がテストステロン(男性ホルモン)を投与するに至ったある母親は、「ほかの親御さんたちには、お子さんとほんとうにつながりを保ってほしい」と切実に語った。本書は親子の物語でもある。

最後に記された、著者のメッセージを贈ろう。「人生で大切なことのためには戦う価値があることをいつも忘れないでほしい」

※2024年5月号世界思想より

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