現在も広く浸透する共産主義
「共産主義問題」(前編) | 現在も広く浸透する共産主義
「アメリカの愛国者よ、団結せよ!」
この言葉は、マルクスとエンゲルスの共著で、共産主義者のバイブル『共産党宣言』(1848年。日本での訳出は1904年)の結語「万国の労働者よ、団結せよ!」をもじったものだ。
読者にこう訴えたのは、かつてレーガン政権で最高顧問を務め、現在は全米ネットのラジオ番組司会者として人気を博す、保守派論客のマーク・R・レヴィン氏である。2021年に出版された『AMERICANMARXISM(アメリカのマルクス主義)』は、全米で120万部を突破し、世界7カ国でも翻訳されているという。日本でも8月、『アメリカを蝕む共産主義の正体』(徳間書店)として邦訳出版された。「共産主義(マルクス主義)なんてもう古いし、終わっている」「それに、アメリカの話で日本とは関係ない」などと考えるのは早計だ。レヴィン氏は「本書の目的」を次のように明かす。
「この国(米国)や自由、家族を愛する数百万もの愛国的なアメリカ人に、マルクス主義がこの国全体に影響力を急速に広げつつある『現実』を『自覚』させることにある。わが国で起きていることは、一時的な流行でもなければ、つかの間の出来事でもない。アメリカのマルクス主義は、いまここに存在し、広く浸透している。さまざまな要素が入り交じっては連動する無数の運動が、この社会や文化を破壊し、私たちが知っているこの国をなきものにする積極的な活動を展開している」
本書では「批判的人種理論」や「アイデンティティ・ポリティクス」、「キャンセル・カルチャー」、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」、「『気候変動』論」などについて、マルクス主義の影響に加え、その現実的な問題点を明らかにしている。
レヴィン氏は「彼ら(マルクス主義者)が自分たちやその活動を何と呼んでいるにせよ、彼らの信念や発言、政治理念は本質的に、マルクス主義の中核的理念と共通している」と指摘。特に「マルクス主義の温床」となっている大学をはじめ、教育現場やマスメディア、大手IT企業、民主党に至るまで、マルクス主義が「広く浸透している」実態を浮き彫りにした。
本書は米国の大学の左傾化をデータも示して明らかにした。また、ハーバード大学大学院のマーク・ラムザイヤー教授も次のように警告している。
「米国の大学の文科系教員は左(左派)がほとんど。米国では左の民主党系、右の共和党系に分かれるが、文科系の歴史、文学、比較人類学者はほとんど民主党か、民主党よりも左。彼らは自分たちが好ましくないと思う学者に抗議文を出したり、『処罰しろ』と学部長に言ったりして怖がらせる」(産経新聞2023年3月12日付)
さらに、南部バージニア州在住、中国系移民の保守派活動家シー・ヴァン・フリート氏は、「(現在)米国で起きていることは、中国文化大革命の再来だ」と主張する(「WiLL」2023年8月号)。彼女いわく、「文化大革命の特徴は『分断』です。革命を起こすには、マルクス主義の戦術で国民を分断し、敵をつくる必要があります。これが毛沢東のやったことです。しかし、実は米国でも起きていることなのです」と。シー氏は、「世界各地で米国発の文化マルクス主義革命が同時発生していると言っても過言ではない」と述べ、日本人に向けては「共産主義の歴史やその恐ろしさを学んでほしい」と訴えた。
尹大統領「光復節」での演説
一方、韓国では「光復節」記念式典(8月15日)での尹錫悦大統領による演説が注目された。尹大統領は「共産全体主義勢力に盲従し、捏造(ねつぞう)と煽動(せんどう)で世論をゆがめ、社会を攪乱(かくらん)する反国家勢力は今も横行している」「このような勢力に決してだまされたり、屈服してはならない」など、「共産全体主義」に6回も言及したという。尹大統領の念頭にあるのは韓国内の左派勢力、特に「世界で最も強硬」と称される労働組合「全国民主労働組合総連盟」(民主労総)だろう。組合員約110万人と、韓国最大の労組であり、「北朝鮮の労働団体と連携する親北の中心的存在」とも指摘される(産経新聞2023年1月18日付)。民主労総は「元徴用工問題」や「慰安婦問題」などで反日デモを仕掛けてきたほか、米韓合同演習への反米デモを繰り返すなど、日米韓連携の障害となってきた。尹大統領は「民主主義や人権、進歩主義を偽装した反国家勢力」と、「共産全体主義勢力」の本性を明確に指摘した。しかし、シー氏が「ほとんどの米国人は共産主義について何も知らない」と嘆いたように、共産主義に対する国民の理解や問題意識は、韓国人も日本人もさほど変わらないだろう。
ちなみに日本では、「Marxist(マルクス主義者)」を公言する斎藤幸平氏(東京大学准教授)の著書『人新世(ひとしんせい)の「資本論」』(2020年9月)が、50万部を突破。国民の高い関心がうかがえる。
本書には「マルクスのエコロジー的側面を現代の環境問題に結びつけて論じたもの」( 田中秀臣氏)「地球温暖化論の焼き直し(リメイク)」(田中英道氏)など、保守派からの批判が寄せられている。斎藤氏やその著書についてはまた別の機会に譲り、前編は以下の結語で締めくくろう。
日本国民よ、共産主義の本質を理解せよ!
世界思想2023年11月号「今月の1テーマ」より