世界思想

裁判と世論 | 日本の裁判に理解深め世論の重要性認識を

aap_heiwataishi

裁判と世論 | 日本の裁判に理解深め世論の重要性認識を

「これまで、裁判官って、主張や証拠を入れてあげれば当然正しい判決を出してくれる機械みたいに考えていたんだけど、本当は違うんですね」

これは一般人の感想ではない。大きな集団訴訟を担当するような若手弁護士が漏らした言葉だ。元エリート裁判官で、現在は明治大学法科大学院専任教授の瀬木比呂志氏の著書『ニッポンの裁判』(2015年)に、「大変興味深い」言葉として紹介されていた。この言葉に瀬木氏は次のように断言する。「もちろん違う。裁判官は、『正義の自動販売機』ではない。血の通った人間であり、理性とともに、感情ももっている。ことに、価値関係訴訟、『価値』に深く関わる事案の判断は、裁判官の価値観、人格、人間性によって結論が決まり、法的な論理はその後付けの説明として使われているにすぎない場合が非常に多い」。

「裁判官は、『正義の自動販売機』ではない」と聞いて驚いた方は、まさに日本の裁判(官)への認識を改める必要がある。昨年来、UPF-Japanやその友好団体である世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐって様々な裁判が進行中だ。今年に入って判決が相次ぐなか、「週刊現代」(2024年3月30日号)に「ある地方裁判所の裁判長」のコメントが掲載された。

「裁判は、法律だけでは判断できないんです。憲法の理念もあるし、世論もあるし、社会的な落ち着きも総合的に考えなければならない(中略)教団に対する国民の批判の目を裁判官も意識せざるをえない」

これもやはり、「裁判は、法律だけで判断できる(される)」との、素朴な考えを裏切る発言だ。

同記事を書いたジャーナリストの岩瀬達哉氏は、「裁判官の素顔に迫り、裁判所の内幕を解明するため」、元職を含む、のべ100人超の裁判官を全国に訪ね歩いたという。

岩瀬氏による『裁判官も人である良心と組織の狭間で』(2020年)は、瀬木氏の『ニッポンの裁判』と共に、裁判官(裁判所)について考えるための良書だ。

本書には例えば、元裁判官で弁護士の井垣康弘氏による生々しい言葉が紹介されている。「判決を書くにあたっても、裁判官は、最高裁に対して非常にびくびくしている」

岩瀬氏も「法服を着て、法壇に座る威厳に満ちた裁判官たちもまた、人事権を持つ『所長がどちらを向いているかということばっかり気にしている』のが実態なのだ」と明かす。

さらに日本の「国家と裁判所の関係」を理解する上では、元最高裁長官を務めた矢口洪一氏による次の指摘も重要だ。

「三権分立は、立法・司法・行政ではなくて、立法・裁判・行政なんです。司法は、行政の一部ということです」

岩瀬氏も「裁判部門は独立していても、裁判所を運営する最高裁の司法行政部門は『行政の一部』として、政府と一体になっていると言っている」と補足する。「最高裁の司法行政部門」とは「最高裁判所事務総局」のことだ。自身も最高裁事務総局にいた経験のある瀬木氏は、「日本の裁判所の最も目立った特徴は、事務総局中心体制であり、それに基づく、上命下腹、上意下達のピラミッド型ヒエラルキーである」と解説する。また「すべての裁判官は最高裁事務総局のコントロール下にある。人事の裁量権はすべて最高裁事務総局が掌握。昇給や昇格も格差があり、最高裁の判断次第で決められる」といった指摘もなされている(池田良子『実子誘拐ビジネスの闇』)。紙幅の関係上、最高裁事務総局と「日本弁護士連合会」(日弁連)の関係までは詳述できないが、池田氏の次の指摘は看過できない。

「『政権打倒』を掲げ公然と反政府活動をする人権派弁護士が、日弁連を乗っ取り、さらには最高裁を通じ全裁判所と法務省民事局を事実上支配下に置いてしまったということである。人権派弁護士が学生の頃目指した共産主義革命を限定された分野とはいえついに成し遂げたのだ」(同前)

LGBT運動や同性婚訴訟でも、裁判が社会変革の手段として活用されてきた実態がある。元参議院議員の松浦大悟氏によれば、日本の活動家らが2013年以降、米国務省から招聘され、「次世代のLGBT運動のリーダーを育成するための研修」で「社会の動かし方」を学んだという(「月刊Hanada」2024年1月号)。「①メディアを使え、②司法を使え、③アライ(支援者)を増やせ」という「3つの方法」で、米国は同性婚合法化という社会変革を成功させ、日本でもこの方法論が遺憾なく発揮されてきた。

改めて、裁判官は「世論」や「国民の批判の目」を意識せざるを得ない存在である。裁判が公正中立に行われることを誰もが期待するが、事はそう単純ではない。裁判闘争においては、法理面の戦いだけでなく、支援者、理解者を増やす世論喚起の戦いもあわせて重要となるのである。

※2024年6月号 世界思想より

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