リーダーシップ |「奉仕」する道徳的な「サーバントリーダー」たれ
リーダーシップ |「奉仕」する道徳的な「サーバントリーダー」たれ
「甘い詰め機能不全の政権」「自民バラバラ『あまりに末期的』」。6月5日付の朝日新聞朝刊(2面)に踊った見出しだ。総じて自民党政権に厳しい朝日とは言え、現政権と自民党内の状況を端的に表しているのではないか。「誰も状況を統制できていない。統制しようとする意思を持つ人もいない。みんなバラバラの方向を向いている。あまりに末期的だ」。記事にはこのような「無派閥の閣僚経験者」のコメントも掲載。同日付の産経新聞は、自民党若手議員の嘆きを、「さんざん議論して党で(政治資金規正法案の)自民案をまとめたのに、首相がひっくり返した。ガバナンスがめちゃくちゃだ」と報じた。
政治資金問題への対応(自民党内の派閥解散)をはじめ、昨年6月に成立した「LGBT理解増進法」制定プロセス、同10月の家庭連合(旧統一教会)解散命令請求の決定プロセス等々、岸田文雄首相のリーダーシップはことあるごとに疑問視されてきた。「週刊文春」(5月2・9日号)が「複数のルートから入手した岸田首相の『オフレコメモ』」を報じたが、ある政治部デスクは次のように述べている。
「オフメモから見えてくるのは、日に日に(岸田首相の)独裁ぶりが加速しているということです。そもそも、首相の特徴は『聞き流す力』。(中略)ズルズル追い込まれた末、何の根回しもなしに、世論を見て、突然『俺が決めるから』と言って決定を下す」
これが岸田首相流の「リーダーシップ」なのかもしれないが、ここで現代の「リーダーシップ研究の第一人者」、ニティン・ノーリア氏(米ハーバード・ビジネススクルール元学長)の言葉に耳を傾けてみよう。
「リーダーシップとは、ほかの人たちの信頼を得るための能力のことで、リーダーが1人で達成できる以上のことを、他者と協力しながらみんなで達成することが必要です。リーダーは誠実さを持ち、『I (私)』よりも『We(私たち)』を大事にできる強さが求められます」(朝日新聞GLOBE 2022年1月号)
「俺が、俺が」の「独裁」的なリーダーシップでは、「ほかの人たちの信頼を得る」ことはできない。そこで、岸田首相をはじめ、あらゆるリーダーにとって必読の書が『サーバントリーダーシップ』(英治出版)だ。著者のロバート・K・グリーンリーフ氏は、敬虔なクエーカー教徒(キリスト教プロテスタントの一派)であり、1997年に出版された同書は、「時代を超越した、古典というべき書」「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきただ一冊」との評価を得ている。570ページ超の大著で、邦訳版も2008年に出版され、増刷を重ねてきた。本書の結論を端的に言えば、「『サーバント』――つまり『奉仕』こそがリーダーシップの本質だと、著者グリーンリーフは説く」のである。
「真に優れた組織のまさにトップの人間はサーバントリーダーだ。こうした人々は、謙虚で腰が低く、オープンで人の話を素に聞き、丁寧で面倒見が良く、その上、決断力がある」と。
さらにグリーンリーフ氏は、「アメリカの圧倒的多数の人々が、あらゆるレベル―最も大事なのは、家族のレベルだが―で適切なサーバントリーダーシップを備えていれば、わが国(アメリカ)の傷を癒せるはずだ。さもなければ、近年の社会的問題は悪化して深刻になり、経済の仕組みさえも圧迫することになる。そうなると、すべてが混乱の渦の中だ」と“予見”した。まさに現在のアメリカの惨状を言い当てた、“予言”でもあった。
その他、「(我々が)心から必要としているのは、先に立って進むべき道を示してくれる、有能で道徳的なリーダー」といった、当たり前のことも記されている。これらは何も目新しい考え方ではない。UPF創設者である文鮮明・韓鶴子総裁も、全生涯を通して「サーバントリーダー」のモデルであったし、韓総裁は世界の指導者らを前に、「永久なる平和世界を建設するためには、各国の政治に責任を持つ指導者が正しい人格を備え、良心の声と道徳の価値に従わなければなりません」と訴えられた(自叙伝『人類の涙をぬぐう平和の母』)。
混迷を深める現代、自国に責任をもつ政治家などのリーダーに対して、「正しい人格を備え、良心の声と道徳の価値」に従うよう啓発するのは、我々国民の責任だ。
『サーバントリーダーシップ』の「終わりに」では、「サーバントリーダーシップの能力を持つ人は、〈組織〉全体に散らばっていなければならない」と、読者に呼び掛けている。我々一人ひとりも、「サーバントリーダー」でありたい。
最後は安倍晋三元首相の言葉で締めくくろう。
「危機の時代にリーダーに求められる資質とは何か。最も重要なのは『決断力』です」「周囲の人間を信じて、仕事を任せる。そして、人に任せた仕事であっても、最終的な責任は自分が引き受ける。それがリーダーです」(「文藝春秋」2022年2月号)。
世界思想7月号より