世界思想

霊性 | 霊性の啓発「進める」一年に

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霊性 | 霊性の啓発「進める」一年に

21世紀も、はや4半世紀。「新世紀」という言葉ももはや忘れ去られた感があるが、新年にあたり、人類や現代の“原点”を見つめ直してみたい。

UPFの創設者である文鮮明総裁は、1991年8月、「新しい時代」の幕開けを次のように宣言した。「新しい時代、21世紀は物質が支配することのない、精神と霊性の時代です。新しい時代、21世紀は神人一体になって生きる時代です」

さらに文総裁は95年8月、「平和と人間の幸福」について「平和と人間の幸福は、人々の道徳性と霊性の啓発にかかっています。平和な世界や平和な国も、その構成員個々人と家庭によって形成されるからです」と述べた。

「精神と霊性の時代」「道徳性と霊性の啓発」、文総裁のこれらのメッセージから、「霊性」というキーワードが浮かび上がる。霊性とは英語で「スピリチュアリティ(spirituality)」。現在では「スピ系」などと揶揄(やゆ)されることもあるが、「医療やケア、教育等の諸領域でスピリチュアルな次元が注目されるようになってきた」との指摘もある(『現代用語の基礎知識2023』)。

本来は「特定宗教に限定されない、拡散した宗教性のあり方のこと」(同上)と解される「霊性」の現代的意味について考えてみたい。

近代日本の「霊性」

日本には鈴木大拙(1870ー1966)によって、80年前に書かれた名著『日本的霊性』(1944年)がある。鈴木は「第二次世界大戦末期から戦後にかけて集中的に霊性論を語った思想家」であり、「近年の日本が生んだ第一級の国際人」(井筒俊彦)など、国内外から高い評価を受ける人物だ(1949年に文化勲章を受賞)。

今回は、鈴木大拙を含め、日本の思想家ら6人を紹介した『霊性の哲学』(角川選書、2015年)を紹介したい。著書はクリスチャンの批評家・若松英輔氏。本書では「近代日本霊性史という新たな試み」が提示され、大変興味深い内容になっている。本書で取り上げられた6人とは、山崎弁栄、鈴木大拙、柳宗悦、吉満義彦、井筒俊彦、谺雄二。「近代日本に顕われた、最初の、そして最大の霊性の思想家」として紹介される山崎弁栄などは、一般的にあまり知られていないが、その生き様と思想は驚くべきものだ。

本書で紹介されたカトリック司祭で、「長くインドに暮らし、インドの霊性のうちにキリスト教を開化させようとした」ビード・グリフィスによる例えも参考になる。彼は「宗教と霊性の差異とつながり」について「手を開いてみる。掌は霊性の場、指がそれぞれの宗教だというのです。霊性と宗教は離れないけれどつながっている。霊性は特定のものを指したり、つかんだりはしない。一方、何かを指すように、宗教を通じることによって人々に届けられることはしばしばある。その宗教も霊性という源につながっていることを忘れてはならないのだと」

本書には言及のない偉大な宗教家(思想家)に、出口王仁三郎(1871ー1948)がいる。新宗教「大本」の教祖で、戦前・戦中に2度も政府から大規模な宗教弾圧を受けたことで知られる(「第1次大本事件」「第2次大本事件」)。王仁三郎は1度目の弾圧(1921年)後の25年6月、全人類の啓発を目的とした「人類愛善会」(現代的に言えば国際的なNPO)を設立。翌年4月の総会で「人類愛善の真義」と題し、次のような講話を行った(以下、現代仮名遣いに一部修正)。

「日本の言霊(ことだま)の上からいれば“人”は“ヒト”と読みて、“ヒ”は“霊”であり、“ト”は“止(とど)まる”ということである。(中略)人類愛善というものは、神の聖霊に充たされるところの予言者、あるいは伝達者に類するところの“霊止(ヒト)”の心になり、そうして愛善を行う。善人だから愛する、悪人だから憎むというようなことならば、それは本当の愛ではないのであります」

約100年前の公演内容だが、「人」は本来、神の霊に止まる存在(霊止)と説いた王仁三郎の教えは、現代でもなお新しさを感じる。

現代社会と「霊性」

現代における「宗教と科学」の関係については、2023年4月号の本欄でも扱った。神経生理学者のジョン・エックルス(1963年ノーベル・医学生理学賞受賞)は、「人間は霊的世界に魂を持ちながら、脳と肉体を持つ物質的存在として物質世界にいる霊的な存在であることを、われわれは自覚しなくてはいけない」と語った。脳神経外科のエベン・アレグザンダー氏も、『マップ・オブ・ヘヴン』(2014年)「これからの時代には、人類にとって厳しい局面が訪れる」「しかしそれと同時に天上世界やそこにあるものを、もう一度真摯にとらえ直す時代にもなるだろう」と予言している

人類に「厳しい局面」が訪れていることには異論の余地がないだろう。真の「平和と人間の幸福」を実現するために、改めて人々の「霊性」にこそ焦点を当てながら、お互いに「霊性の啓発」をさらに進める一年にしたい。「(私たちの人生の目的は)私たちの永遠の霊性を啓発し、完成させるためです。そのための唯一の方法は、真の愛を実践すること、すなわち他のために生きることです」文鮮明総裁(1990年2月2日)。

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