今月の1テーマ

米国大統領選挙

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大統領選の争点と勝敗の要因は?

 

米国大統領という世界最重要の国家指導者が決まった。第47代大統領に返り咲くドナルド・トランプ氏。19世紀のクリーブランド大統領(1884年と92年に当選)以来、再選に失敗した米国大統領が返り咲くのは約130年ぶり、2人目となる。

「史上まれに見る大接戦」と報じられ、当初は当落の判明に「数日から、長い場合は数週間」かかると見られたが、実際には投開票翌日の6日未明にはトランプ氏が勝利宣言を行った。大統領選の勝敗を決める7つの激戦州の中で、ジョージア州、ノースカロライナ州とトランプ氏が先取。「決戦の地」と言われるペンシルベニア州でもトランプ氏が競り勝ち、結果的に7州すべてを制した(計538人の選挙人の獲得数は、トランプ氏312人、カマラ・ハリス氏226人という結果に)。

今回の投票率は、フロリダ大による7日までの試算によると「64・52%」。戦後では前回(2020年、66・6%)に次ぐ高水準だった。全米の総得票数でも共和党候補が民主党候補を20年ぶりに上回り、「高い投票率が民主党に有利に働くとの定説を崩した」(日経新聞11月8日配信)と言う。また、大統領選とあわせて実施された連邦議会選でも、共和党が上院の過半数を4年ぶりに奪還。下院でも共和党が過半数を維持し、大統領・上下両院を共和党が独占する「トリプルレッド」が実現する。まさに、トランプ氏・共和党側の完勝である。

トランプ氏を押し上げた「物価高」と「不法移民問題」

では、今回の大統領選の争点、トランプ氏の勝因・ハリス氏の敗因は何だったのだろうか。「NBCテレビの出口調査によると、最も重視する争点は『民主主義』だと答えた人は35%で、『経済』の31%を上回ってトップとなった。続いて『人口妊娠中絶の是非』が14%、『移民問題』が11%、『外交問題』が4%だった」(産経新聞11月7日付)。さすが世界最大級の民主主義国・米国民の回答だが、実際には「経済・物価高」と「不法移民問題」の2つが、大半の有権者の主要な争点となったのではないか。

米メディア各社の出口調査では、米国の経済が「あまり良くない」「悪い」との回答が合わせて7割近くにも達した(そのうちの7割がトランプ氏に投票)。インフレ(物価高)に「苦しんだ」との回答者も7割を超えた。

また米CNNの出口調査では、回答者の73%が米国の現状に「不満」「怒っている」と回答。家計の状況が4年前と比べて「悪化した」との回答も半数近く(46%)を占め、「良くなった」(24%)を大きく上回った。多くの有権者が不満を抱いた「米国の現状」とは、バイデン政権下の4年間で、食料品やガソリン代などの値上げの直撃を受け、低所得層はじめ国民の暮らしが悪化したことに違いない。

一方、「不法移民問題」も「米国の現状」を映す鏡だ。2月に米調査会社ギャラップが発表した世論調査では、米国にとって不法移民は「重大な脅威だ」と55%もの人が回答した(過去最高を記録)。移民に寛容だった民主党のバイデン政権下で、米国への不法入国者は「少なくとも1100万人」と指摘される。バイデン政権ではハリス氏が副大統領として移民問題を担当したが、大した成果を挙げることができなかった。ハリス氏は歴史的な物価高に対しても、バイデン大統領との差別化を図る訴えができなかった。

以上の点からも、「経済・物価高」や「不法移民問題」に対する不満を抱えた有権者の票が、トランプ氏に流れたと見るのが自然だろう。

労働者階級から見捨てられた「エリート層の党」

さらに今回は、出口調査か「経済に対する不満」に加え、「ヒスパニック(中南米系)有権者の支持拡大などがトランプ氏の勝因となったことが明らかになった」という(産経新聞11月8日付)。

伝統的に民主党の支持基盤であったヒスパニックは全米に約6300万人(総人口の19%)。彼らの多くも、「経済に対する不満」と「不法移民問題」が自分たちの生活を脅かすものと考えたのではないか。

ハリス氏の敗因については、民主党のあり方自体にその原因を求める声も多い。社会主義者として知られる民主党系無所属のバーニー・サンダース上院議員は、自身のX(旧ツイッター)に次のように投稿した。「労働者階級を見捨ててきた民主党が、労働者階級から見放されていることに気づいたことは驚きではない」

ルーズベルト大のデービッド・ファリス准教授は、「民主党は、16年の大統領選でトランプ氏が働きかけたような、政治から『忘れられている』と感じる人々に訴えかけることができなかった」と指摘した(朝日新聞11月7日付朝刊)。

かつては労働組合に支えられた「労働者の党」民主党だったが、近年は都市部や名門大学の「エリート層の党」に変質。民主党陣営の今回の敗北は、「忘れられている」と感じる多くの労働者たちに正面から向き合えなかった結果だと言えよう。民主党はこれまで過度に重視してきた、人種や「LGBTQ」など「アイデンティティ」に基づく政治や急進的な政策の弊害を直視し、見直すべき時だ。

FOXニュースの有権者分析(5日)によると、「国が間違った方向に進んでいる」との回答が7割にも達した。

米国は「内戦(シビル・ウォー)」状態にあるとも言われる。さらにトランプ氏は「世界は第3次大戦の瀬戸際にある」と訴え続けてきたが、これは決して脅しではない。米国内の分断の修復と世界平和に向けて、トランプ政権の確かな舵取りを心から期待したい。

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