#158 低調だった党首討論 〜 減税巡り苦慮する与野党 〜
ウォッチ!永田町〜ここがポイント国会情勢〜
#158
低調だった党首討論 〜 減税巡り苦慮する与野党 〜

昨年10月9日の衆院解散当日に行われて以来の党首討論が、4月23日開催された。通常の委員会質疑では野党の質問に対して首相や閣僚が答弁するだけの一方通行であるため、野党の言いたい放題という側面がある。ところが、党首討論は双方が主張し、反論できるので突っ込んだやり取りが期待される。
討論内容は低調
討論時間の計45分間の割り振りは、立憲民主党に30分、日本維新の会に9分、国民民主党に6分だった。
立憲民主の野田佳彦代表は主に、トランプ米政権による高関税政策を質問。維新の前原誠司共同代表は、憲法改正と安全保障、国民民主の玉木雄一郎代表は物価高対策としてのガソリン税の暫定税率廃止を迫った。
だが、論戦の内容は低調だった。「3代表が何を聞いても首相がのらりくらりと交わすだけ。方向性や目標を明確にした発言をしないので、生産的なことはなかった」とマスコミ関係者の評価は低い。
確かに、野田氏が対米交渉の体制の脆弱性を批判しても「劣勢だったとは思っていない」と反論した程度。前原氏が日米安保条約の片務性について不満を表明したトランプ発言について質(ただ)すと、「議論を深める必要がある」と交わす。条約を見直す必要性の有無を聞くと「不断の見直しが必要だ」と事実上のゼロ回答。玉木氏がガソリン暫定税率を「いつ廃止するか」と尋ねると、「自民、公明、国民民主の3党間協議を経て結論が出ることを心から期待している」と述べるにとどまった。さらに、就職氷河期世代が10〜15年後に年金受給世代になることを指摘した上で年金制度改革関連法案の国会提出を求めた同氏に「最終的な議論をしている」と答えただけだった。
「石破さんは少数与党の党首としての立場を利用し、何を聞かれても明確な意思表示をせず方向性を示さない。どんなにリーダーシップがないと叩かれようが、それが石破流なのだと居直っている感すらある。逆にそれがおとぼけの延命策なのだ」と政界関係者は指摘する。ただ、その延命策も夏の参院選が近づくにつれ奏功しなくなってきている。参院選の目玉政策を決め、他党と戦える魅力的な公約を策定しなければならないからだ。
当初、「つなぎの措置」として国民一律に3万から5万円程度の現金給付を行い、トランプ関税により打撃を被る自動車業界への助成を盛り込んだ令和7年度補正予算案を今国会中に編成する方向だった。石破首相や自民の森山裕幹事長は「補正で対応」し目玉政策とする考えだった。しかし、報道各社の世論調査で厳しい評価が相次いだことで、見送りとなったのである。
しかし、選挙を目前に控える参院議員の焦りは募る。「参院自民では、有権者に刺さる政策を打ち出さねば危ういとして、党所属参院議員にアンケート調査を実施し、減税を含めた政策を立案して発信すべきだとする声が強まっている」(自民党中堅)という。衆院では積極財政派とされる高市早苗、小林鷹之両氏が減税の必要性に言及。他方、森山幹事長は「財源の裏付けのない減税政策は国際的な信認を失う」と反論するなど党内での対立が深刻化。14日の参院決算委員会では維新の議員から加藤勝信財務相に「森山派か高市派なのか」との質問が出たほどだ。
小野寺五典政調会長は「決してポピュリズムに流されることなく、骨太で説得力のある政策を打ち出していきたい」とし、5月末までにはまとめたい意向を示しているが、前途多難であるのは間違いない。
一大勢力になりつつある減税派
魅力ある選挙公約づくりという点では、野党第一党の立憲民主党も苦慮している。有権者受けしやすい経済政策として消費税減税を訴える減税派(江田憲司元代表代行、末松義規衆議院議員ら)と、「財源なき減税策は政策ではない」(野田代表)とする財政規律派が互いに主張を譲らず対立状態に陥っているのだ。
江田氏らは食料品の消費税率を時限的に0%に、末松議員らのグループは消費税率を5%に引き下げるべきだと主張。2つの減税論が存在する。一方、規律派の枝野幸男元代表は「減税ポピュリズムに走りたいなら、別の党をつくるべきだ」と激高する。だが、重徳和彦政務調査会長が「党内に『財源はなんでもいいからとにかく減税だ』と言う人はおらず、ポピュリズムというのは何を意味しているのか、ちょっと分からない」と枝野氏を批判するなど、減税派が一大勢力を占めつつあるのが実情だ。
(やまおか・ただし=政治ジャーナリスト)