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リアル・アメリカ〜知られざる政治経済・社会・メディアのいま〜 Vol.105

報道のファクトチェックはどのように行われるべきか

text by 渡瀬裕哉

日本ファクトチェックセンターが米Googleの支援で設立された。運営者は旧朝日新聞出身者などが中心となっていることに特徴があり、SNS上ではそのイデオロギー的な偏りへの疑義が呈されている。実際の運営は2022年10月1日以降となっているので、どのような内容がファクトチェックの対象となり、どのようなチェックがなされるのかは見物だと思う。

外国政府によって流布される偽情報

さて、フェイクニュースとファクトチェックを巡る問題は米国でも話題になっている。原因はバイデン政権の国土安全保障省がネット上に流布されているニュースの真実性を検証すると発表したからだ。

2022年4月、国土安全保障省が新しい「偽情報ガバナンス委員会」を結成した。同委員会の立ち上げは2020年大統領選挙とそれに伴う混乱で、米国社会の秩序にフェイクニュースが深刻な被害を与えたことが背景にある。実際、同省は「偽情報の拡散は、国境の安全、災害時のアメリカ人の安全、民主的な機関に対する国民の信頼に影響を与える可能性がある」と声明を公表している。

フェイクニュースの問題は極めて深刻なものであることは疑い得ない。そして、そのうちの一部のものは外国政府が意図的に民主主義国を混乱させるために流布した可能性が米情報機関の報告によっても指摘されている。

ファクトチェックを政府が行うことの危険性

しかし、たとえそうであったとしても、政府が「真実」を認定する権限を持つ社会は別の危険性を孕む。それはジョージ・オーウェルの「1984」に登場した真理省のようなものであり、政府があらゆる情報改竄を施すことで手が付けられないほどの問題が発生する可能性が生じることを意味するからだ。

およそ人間の歴史において、政府ほど深刻で重大なフェイクニュースをまき散らしてきた主体は存在しない。ナチスによるユダヤ人虐殺はその最も著名な事例であるが、世界中にはポル・ポト派などの共産主義勢力が無辜(むこ)の民を虐殺してきた悲劇が山ほど存在している。

いまや、第5の権力として君臨するGAFAが第4の権力であるオールドメディアと手を組んで、「何が真実であるか」を認定する行為は、いずれは政府との情報統制に関する癒着を生み出すことになるだろう。ファクトチェックを権威的に行うことを意図する全て試みを阻止することが我々の社会の健全性を維持するために重要だ。

(わたせ・ゆうや=国際情勢アナリスト)

報道のファクトチェックはどのように行われるべきか

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