#149 総裁選、9人の混戦 〜 決選投票で新総裁誕生へ 〜
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#149
総裁選、9人の混戦 〜 決選投票で新総裁誕生へ 〜
- text by 山岡忠志
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やまおか・ただし=政治ジャーナリスト
自民党のトップを決める総裁選が9月12日告示され、過去最多の9人が立候補した。推薦人20人を集めた上での出馬なので、単純計算すれば、9人掛ける20人の180人の国会議員票が初めから分散することになる。そうなると、国会議員票においては、全367票のうち、残る187票を巡って9人が奪い合うことになる。加えて、党員・党友を合わせた「地方票」367票も細かく割れ、誰も過半数を獲得できないだろう。
どの候補も国家目標や戦略勝負の視点が不足
ただ「各種世論調査で共通して支持率の高いのが、石破茂、小泉進次郎、高市早苗の3人だ。このうち2人が決選投票に進み、新総裁が決定することになろう」と自民党幹部は語る。アナリストによって分析はさまざまで、「石破・小泉」、「石破・高市」、「小泉・高市」の3つのケースが成り立つようだ。
前出の党幹部の見方は、「石破・高市」だった。「小泉さんは若くて話が上手。ルックスも良く刷新感を出せる候補だ」としながらも「週刊誌がスキャンダルを追いかけていると聞いている。もしそれが出ると大きなイメージダウンにつながる可能性がある」と予想した。また、あるマスコミ関係者は「小泉・高市」と見る。「自民がいま、何よりも求められているのが支持率の低い党のイメージを大きく変えられる人だから」と言う。
大手紙出身の政治評論家は、「『石破・小泉』になるだろうが最終的に小泉進次郎が勝つのではないか」と見通した。「小泉の後ろには菅義偉元首相がいる。河野太郎票は結局、小泉に回る。神奈川連合の力が発揮されるのではないか」と読む。さまざまな見方があるが、共通しているのは「国家目標や戦略での勝負」といった肝心の視点が欠落している点だ。
自民党のトップは、次の衆院選の顔になるだけでなく、第102代の首相となり国家のリーダーとして国内外で能力を発揮しなければならない。つまり、選挙に強そうか否かとか人気先行の選択をすると国策を危うくし国の針路を誤りかねないのだ。小泉総理の可能性に触れた先の政治評論家も「あくまで選ばれる可能性を言ったまでで能力があるかは別問題」と指摘する。
チームの声に任せる政治の危険性
小泉氏には防衛・外交・財務など主要な大臣を務めた経験がない。環境相としての識見はあるかもしれないが、それで国家の運営ができるのかは疑問だ。本人は「足りないところがあるのは事実。最高のチームを作って挑む」というが、国家有事の際、自衛隊3軍の長として正しい決断ができるのか。経済成長戦略の青写真ができたとしてそれを誰が判断するのか。選択的夫婦別姓制度の導入を公約にしたが、なぜ、自民が見解を二分して議論が続いているのか理解しているのかなど疑問は多い。
「健全な思想や価値観もなく肝心なことを自分で判断できず、チームの声に任せてしまう政治ほど危ういものはない。岸田以下になる可能性もある」と語る自民党職員は、小泉氏への支持はこの先伸びないのではないかと予測する。むしろ、小林鷹之氏の立候補により一時は窮地に陥った高市早苗氏を推す声が地方の党員・党友に強まっていることを肌で感じると話す。安倍晋三氏が築いてきた保守岩盤層は岸田首相によって崩されてきたが、その層の復活が起きつつあるという意味でもある。27日投開票までの残りの期間、党の資金問題ばかりでなく、靖国神社の参拝問題、皇位継承問題、北朝鮮による拉致問題、対中国姿勢、憲法改正などについて深い論戦が期待される。
地味な立民の代表選
一方、任期満了に伴う立憲民主党の代表選が7日告示、23日投開票のスケジュールで進んでいる。立候補したのは、野田佳彦元首相、枝野幸男前代表、泉健太代表、吉田晴美衆院議員の4人。1人2ポイントを持つ国会議員136人の計272ポイントと国政選挙の公認予定者、党籍を持つ地方議員や党員・協力党員(サポーターズ)のポイントを合わせ計740ポイントで争われる。一回目の投票で過半数を確保した候補がいなければ上位2人で決選投票を行う点では自民党と同じだ。
マスコミ関係者の話では、国会議員票では小沢一郎氏が応援する野田氏が先頭を走っているというが、決選投票にもつれこむ可能性も否定できないという。ただ、自民総裁選と比べて地味な選挙戦を展開。自民批判の内容はみな似通っており、全く盛り上がりに欠けている。
(やまおか・ただし=政治ジャーナリスト)