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#160 コメ失言で江藤農水相を更迭 〜 後任小泉氏起用は起死回生策か 〜

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ウォッチ!永田町〜ここがポイント国会情勢〜

コメ失言で江藤農水相を更迭 〜 後任小泉氏起用は起死回生策か 〜

石破茂首相は21日、農政の責任者だった江藤拓農水相を事実上、更迭した。コメの価格高騰に国民が家計の痛みを痛切に感じているさ中にもかかわらず、「(自分は)コメを買ったことがない。支援者の方々がたくさんくださるんですね。売るほどある」などと集会(18日、佐賀市)で問題発言。20日の参院農林水産委員会で、釈明に追われた。

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与党内でも辞任論が浮上

石破首相も同日の衆院本会議で「消費者、生産者双方に配慮を欠き、極めて不適切な発言だった。任命権者は私であり、深くお詫びする」と頭を下げつつも、「米価高止まりなど農政の課題が山積する中、今まさに全力を挙げるべき時だ」と農水相の続投を明言した。

ところが、収まらないのが野党だ。立憲民主党の野田佳彦代表は、「国民感情を逆なでする発言だ。この人にコメの価格形成や流通改善の仕事ができるのか。国民は信用せず、任にあらずだ」と批判。国民民主党の榛葉賀津也幹事長も、「ふざけるなという話だ。国民に失礼。生産家にも失礼。消費者にも失礼だ。即刻辞めるべきだ」と辞任を要求した。日本維新の会の前原誠司共同代表も、「不適切にもほどがある妄言だ」とし、自ら進退を判断するよう求めた。

立憲民主など野党5党は20日、国対委員長会談を国会内で開き、江藤農水相の更迭を求める方針で一致。21日午後3時からの党首討論までに具体的な動きがなければ農水相不信任決議案の提出を検討することを確認した。与党内でも辞任論が浮上し、公明党の西田実仁幹事長は江藤発言に抗議。すべてのマスコミは続投に疑問を投げ掛けた。

「石破政権は少数与党なので野党が一致して行動すれば不信任案は成立してしまう。これは政権にとって打撃になる。マスコミの石破政権叩きが勢いを増そう」と指摘したマスコミ関係者は、「他の法案審議に影響が出て、政権が最も重視する年金改革法案が不成立になる可能性がある。そうなった場合、自民党への批判が強まり、夏の参院選で戦うことができなくなる。そのため、石破首相は続投から更迭へと急転直下、変更したのだ」と語った。

小泉氏起用「ある意味、賭けの要素」

江藤農水相の後任には小泉進次郎・元環境相が就任した。小泉氏は、「国民が一番不安に、また、毎日の生活の中で日々感じているコメの高騰に対してスピード感をもって対応できるよう、全力を尽くしてまいりたい。コメ担当大臣という思いで集中して取り組んでいきたい」と抱負を語った。「この小泉起用は実に興味深い人事だと思う。ある意味、賭けの要素もある」と語るのは自民党幹部だ。

というのも、小泉氏は2016年の党農林部会長時代、「改革の本丸は全農だ」と意気込み、農協改革案をまとめた。当時、35歳、当選3回の若武者で鼻息が荒かった。だが、仕上がった内容はまったくの骨抜き案。農水族のベテラン議員と農協の猛反発に屈したからだ。コメの価格を抑制し食糧安全保障を強化するためには彼らが反対する「減反から増産」への政策変更が必要、というのが小泉氏の持論なのだ。

「かつて農協は1000人以上の集会を開いて小泉氏主導の農協改革に反対した。それを再び敵に回すとすれば党基盤の弱体化につながるに違いない」と先の幹部は語る一方で、「かつて父親の小泉純一郎首相が『自民党をぶっ壊す』と叫んで郵政民営化のために党の有力支持基盤だった郵政族と激突し、国政選挙で大勝利したことがある。今回の参院選直前にコメの価格が3000円台となり、既得権益を持つ農水族や農協とのバトルを演出すれば、同様の起死回生策になるかもしれない」と言う。

21日に行われた今国会2回目の党首討論では、事前に農水相の更迭が公表されたため、立憲民主と維新からは責任追及などはなく、このコメ問題に触れられることはほとんどなかった。唯一、国民民主の玉木雄一郎代表が「減反から増産」への政策転換を求め、石破首相もそれに同意していた。今後、米の安定的低価を追求する政策と共に、シーレーンが脅かされるなど食糧安全保障問題が発生した際に対処できる食糧有事法制の制定などの議論へと向かう可能性もある。
(やまおか・ただし=政治ジャーナリスト)

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