いまさら聞けない「仏教の基礎知識」

いまさら聞けない「仏教の基礎知識」 第12回

中国の影響を受けた「北伝仏教」

text by 魚谷俊輔


インドで仏教が発生してから日本に到達するまでには、相当の時間と紆余曲折を経ながら伝わってきました。インドで仏教が発生したのが紀元前5世紀から4世紀ごろと言われています。それがやがて、シルクロードを通ってゆっくりゆっくりと伝わってきて、日本に仏教が公式に伝わったのが538年、すなわち6世紀ですから、なんと1000年かかっているわけです。ということは、お釈迦様が法を説いてから1000年かかって日本に到達しているわけですから、その間にかなり変化していったわけです。

そして経典も、インドの言葉はサンスクリット語とかパーリ語であったわけですが、中国を通過してくるわけですから、それが漢字に訳されるわけです。他の言語に訳されますと、どうしてもオリジナルから遠くなります。インドと中国の間にも文化的違いがあり、中国と日本の間にも文化的違いがありますから、日本に伝わってきた仏教というのは、お釈迦様の説いたオリジナルと比べれば、かなり変質したものが伝わってきたのだということになります。この日本に伝わった仏教の流れのことを「北伝仏教」と言います。「北伝仏教」は基本的に大乗仏教の流れになります。

もう1つの伝わり方をしたのを「南伝仏教」と言います。タイとかミャンマーとか、むかしセイロンと呼ばれていたいまのスリランカ、さらにインドネシアに伝わっていったのは、上座部仏教の方でした。ですから、いまでもスリランカやタイのお坊さんは極めて厳しい修行をしているわけです。日本にやってきた仏教は、最初から大衆化された大乗仏教という形で伝わってきたということになります。

そして、日本に伝わる途中で、中国を通過するわけです。中国を通過したときに何が起こったかというと、仏教が儒教の影響を受けました。ですから、この2つの伝統が混ざって日本に伝わってきたことになります。中国にはもともと「先祖祭祀」の伝統があり、そこから孔子の説く儒教における「孝」の思想が確立していきました。「孝」とは何をするかといえば、①先祖を祀ること②親に仕えること③子孫を残すこと——の3つになります。この3つが儒教においては強調されたわけです。その帰結として、儒教では「葬式」が非常に大切にされましたし、「お墓」が重要視されていました。ところが、インドの仏教の場合にはもともと輪廻転生ですから、家庭というものは煩悩・愛欲の場ということで、あまり重要視されないわけです。ですから、もともとこうしたものを重視しないインドの仏教が古代中国に入ってきても、家庭を重要視する中国においてはあまりにも個人主義的な宗教だということで、なかなか広まらなかったのです。そこで、中国において仏教が受容されていく過程で、いわば仏教が中国化されていくという現象が起こります。

(魚谷俊輔/UPF-Japan事務総長)

⑫中国の影響を受けた「北伝仏教」

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