#13 「孝」の倫理と「盂蘭盆経」

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いまさら聞けない「仏教の基礎知識」

#13 「孝」の倫理と「盂蘭盆経」

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UPF-Japan事務総長 | 魚谷俊輔

1964年生まれ。千葉県出身。東京工業大学工学部化学工学科卒。95年に米国統一神学大学院(UTS)神学課程を卒業。2000年に日本に世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)が創設されるにともない、事務次長に就任。05年より、国連NGO・UPF-Japanの事務次長、17年8月より同事務総長。

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インドで発生した仏教が日本に伝わる途中で、中国を通過しました。そのとき仏教は儒教の「孝」の思想の影響を受けました。中国において仏教が受容されていく過程で、いわば仏教が中国化されていくという現象が起こります。その代表例が、目犍連(もくけんれん)と「盂蘭盆(うらぼん)」という話です。目犍連という人は、もともと実在した釈迦の内弟子の一人で、弟子の中で神通力が一番強かったと言われる人です。この人をテーマとして、中国であるお経が作られました。後に中国で作られたので、これは本物ではなくて「偽経」ということになるんですが、「盂蘭盆経(うらぼんきょう)」といいます。これは中国で「孝」の倫理を中心にして成立した偽経で、その中に「盂蘭盆」の逸話があります。それは次のようなストーリーです。

目犍連がある日、亡き母を神通力によって見たところ、生前に子を思うあまりに犯した罪(食べ物を盗んだ罪)によって、逆さ吊りという餓鬼道の責め苦に遭っているのが見えたと言うんです。この逆さ吊りのことを「ウラバンナ」と言ったわけです。ここから盂蘭盆という言葉が出てきて、それがいまの「お盆」になっていくわけです。ですから、「お盆」というのはもともとは「逆さ吊り」という意味なんです。

さて、あの世で苦しんでいる母の姿を見て目犍連は悲しんで、お釈迦様に相談したわけです。「母をどうしたらよいでしょうか。私の母が餓鬼道の責め苦に遭っているので、何とか救ってください」と頼んだわけです。するとお釈迦様は、「多くの修行僧に食事を施して供養しなさい」と指導し、目犍連がその供養を行ったところ、たちまちのうちに母親は餓鬼道を脱して極楽に往生し、歓喜の舞を踊りながら昇天した、という話です。本来の仏教においてはこういうことはあり得ないのですが、中国に伝わって親孝行が大切なんだという価値観が入り込んできた結果、お経の中にこういう教えが入ってきたわけです。

民間伝承の世界では、現在行われている盆踊りは、この目犍連の母親が天へ昇る姿を象形したものであるとされています。このように、仏教にはもともと先祖供養という発想はなかったのですが、中国に伝わった際に先祖供養を受け入れ、中国の宗教的伝統と慣習を受容した形の仏教が日本に伝来してきました。ですから、いわば中国化された仏教を日本は受け取っているということになると思います。

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