いまさら聞けない「日本基督教史」

いまさら聞けない「日本基督教史」 第4回

状況適応型のアプローチ

text by 魚谷俊輔


先回は16世紀のキリスト教宣教の2つのアプローチとして、「十字軍型のアプローチ」と「状況適応型のアプローチ」があることを説明し、中南米やアフリカの未開人に対しては「十字軍型のアプローチ」が採用され、半ば強制的にキリスト教が植え付けらえたことを解説しました。

ところが、アジアにやってきた宣教師たちが発見した国や社会の状況は、南米の未開の民族やアフリカの部族とは違っていたわけです。とくに中国や日本などの国に住む人々は、キリスト教は知らないけれども、異教徒でありながらかなり高度な文明を既に持っていたのです。文字はあるし、官僚制度はあるし、しっかりした政府はあるし、仏教という深遠な教えはあるし、儒教もあるしということで、キリスト教の宣教師からすれば「ちょっと手ごわい相手」だったのです。少なくとも、一気にキリスト教化できるような状況ではありませんでした。自分たちは少数派の宣教師に過ぎず、宣教対象は未開の社会ではなく、そこには既に確立した社会があったのです。そういう所に「十字軍型のアプローチ」を採用して、上から一方的にキリスト教を植え付けるということは、どう考えても不可能だったのです。

そこで彼らは「状況適応型のアプローチ」をとりました。これは何かというと、その宣教する地域に存在するいわゆる土着の文化や土着の宗教というものを頭ごなしに否定しないで、「それも良いですね。でも、こういうのもあるんですよ。ヨーロッパにはこんなに素晴らしい文明がありますよ。これは皆さんのお役にたちますよ。私たちは皆さんの先祖崇拝や仏教を否定しに来たんじゃないんですよ」というように、柔らかく摩擦が起きないような形でキリスト教を広めていこうというアプローチの仕方をしました。

例えば、マテオ・リッチという人は中国に入りました。彼が何から始めたかと言うと、一生懸命に中国語を勉強して、漢字を習って、中国の古典を学んで、中国人になりきろうとしたのです。そのようにして中国の文化に馴染んでから、いかにキリスト教を中国の文化を発展させる素晴らしいものとして中国人に受け入れさせていくかを、戦略的に考えたわけです。このようなやり方、文化的な摩擦を避けて伝えようとするやり方のことを「状況適応型のアプローチ」というわけです。

(魚谷俊輔/UPF-Japan事務総長)

状況適応型のアプローチ

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