#3 北朝鮮は米国と戦争がしたい?
魚谷事務総長の時事解説
#3 北朝鮮は米国と戦争がしたい?
- UPF-Japan事務総長 | 魚谷俊輔
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1964年生まれ。千葉県出身。東京工業大学工学部化学工学科卒。95年に米国統一神学大学院(UTS)神学課程を卒業。2000年に日本に世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)が創設されるにともない、事務次長に就任。05年より、国連NGO・UPF-Japanの事務次長、17年8月より同事務総長。
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米国と本気で戦争をすれば確実に負けることは、北朝鮮は十分に分かっています。したがって、戦争を始めることは自殺行為であり、自らの政権の終焉であることを理解していますので、あえて北朝鮮の側から戦争を仕掛けるメリットは何もありません。表面的には口汚く米国を罵ってみたり挑発したりしても、北朝鮮は本心では米国の力を恐れており、戦争になることだけは絶対に避けたいと思っているのです。
1953年に共産軍と米軍を中心とする16カ国の連合軍との間に結ばれた「休戦協定」によって朝鮮戦争は終わったと考えられていますが、休戦協定は停戦協定でも平和協定でもないわけですから、現在の状況は法的には「戦争の休止状態」に過ぎません。
北朝鮮は1970年代から、朝鮮戦争の休戦協定に代わる恒久的な平和協定の締結に応じるよう米国に要求し続けています。それは、北朝鮮の戦略目標が、米国との間に平和協定を結ぶことによって現体制を保障させて生き残り、南北統一の主導権を握ることにあるからです。
金正恩委員長は、「わが共和国は責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力がわれわれの自主権を侵害しない限り、こちらから核兵器を使用することはしない」と言っていますが、これは米国から攻撃を受ける可能性を極力排除するための発言であると考えられます。すなわち、北朝鮮は核開発を行うことによって緊張を高める一方で、それをカードに使って米国と交渉して生き残ることを最終目標としているのです。
金正日時代には、核開発は経済支援を引き出すための「外交カード」として使われました。1994年の「米朝枠組み合意」のときには、北朝鮮が独自の核開発を放棄する代わりに、米国は軽水炉型原子力発電所を北朝鮮に提供することに責任を持ち、さらに軽水炉が完成するまで米国が年間50万トンの重油を北朝鮮に提供することを約束しました。2002年の「第二次核危機」のときにも、NPT脱退を宣言して緊張を高めておいて、中国を仲介役として6カ国協議に持ち込むなど、緊張を高めておいて最終的には交渉のテーブルに着く手法は「瀬戸際外交」と呼ばれました。
ただし、金正日時代には核兵器は開発の途上にあり、その「凍結」をちらつかせることによって経済支援を引き出すことが目的であったのに対して、金正恩時代には核兵器の保有を明確に宣言することによって、それを体制維持のための装置と位置付けている点で、「瀬戸際外交」も新しい段階に入ったということができるでしょう。