いまさら聞けない「北朝鮮問題」

Q.韓国は北朝鮮の核・ミサイル開発をどう考えているのか?

A.文在寅政権は「対話路線」を打ち出すが、北からは相手にされず

「南北統一」という言葉には、韓民族の感情を鼓舞する力があります。朴槿恵前韓国大統領は2014年1月6日の新年会見で、南北統一の必要性を強調しながら、「統一はテバク(大当たり)だ」と発言し、一時的に支持率をアップさせました。しかし、2016年1月6日に北朝鮮が4回目の核実験を行い、同年2月7日に「人工衛星打ち上げ」と称するロケット発射を強行するや、朴政権は、独自制裁として開城工業団地の操業を「全面的に中断する」と発表しました。

開城工業団地は南北経済協力の象徴であり、2010年3月の韓国軍哨戒艦「天安」沈没事件、同年11月の延坪島砲撃事件が起きても閉鎖されませんでした。ここにはピーク時には5万人以上の北朝鮮労働者が働き、年間5億ドルの生産額を挙げていたわけですから、北朝鮮にとっては貴重な外貨稼ぎのツールでした。これを閉鎖することは南北関係の対立構図を決定的なものにするという意味において、朴前大統領の決断は韓国の北朝鮮政策における一大転換だったと言えます。

その朴大統領が弾劾され、2017年5月10日に文在寅政権が誕生しました。文在寅氏の側近である大統領秘書室長の任鍾晳氏は、学生運動グループの出身で「86世代」の代表的な人物です。彼は1989年に当時大学生だった林秀卿さんを北朝鮮に送り、国家保安法違反で服役した経歴を持ち、「主体思想派」であると批判されています。また、国家情報院院長を務める徐薫氏は、金大中・盧武鉉大統領の南北首脳会談を仕切った人物で、金正日と最も多く会った韓国人と言われています。朝鮮半島エネルギー機構(KEDO)現場事務所長として北朝鮮に2年間常駐した経歴もあります。このように、文在寅政権の重要ポストには北朝鮮のシンパが就いているのです。

文在寅大統領は就任直後、北朝鮮との「対話路線」を表明した「5大原則」を発表しました。それは、①韓国が追求するのは平和②北朝鮮の体制を保証する朝鮮半島の非核化を追求③平和協定の締結推進④朝鮮半島に新たな経済地図を描く⑤交流・協力事業は政治・軍事的な状況を切り離し一貫性をもって推進する――というものでした。
しかし、北朝鮮はこれをまったく相手にしませんでした。7月15日付の「労働新聞」は、文大統領の対話路線を、「外部勢力に頼り、同族を圧殺しようとする下心がある」「朝鮮半島の平和と南北関係改善の助けになるどころか、障害だけを重ねる寝言のような詭弁だけが並んでいる」と批判しています。

結局、文在寅大統領は7月29日の北朝鮮のミサイル発射を受けて、環境アセスメントを理由に拒否していた高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)配備を容認しました。 北朝鮮は交渉相手を米国と考えているため、韓国は核ミサイル問題では事実上「蚊帳の外」に追いやられています。北朝鮮の核問題を解決する上で、韓国はなんら実質的な影響力を発揮できていないのが現状です。

(魚谷俊輔UPF-Japan事務総長)

⑥韓国から見る核・ミサイル問題<上>

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