#1 「北」はなぜ核にこだわるのか
魚谷事務総長の時事解説
#1 「北」はなぜ核にこだわるのか
- UPF-Japan事務総長 | 魚谷俊輔
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1964年生まれ。千葉県出身。東京工業大学工学部化学工学科卒。95年に米国統一神学大学院(UTS)神学課程を卒業。2000年に日本に世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)が創設されるにともない、事務次長に就任。05年より、国連NGO・UPF-Japanの事務次長、17年8月より同事務総長。
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現在の国際情勢に対する北朝鮮の理解は、「米国主導の国際社会が金正恩体制を圧迫している」というものです。したがって、自衛のための強力な国防力がなければ帝国主義者たちの侵略の犠牲になってしまうので、核兵器は抑止力を高めるのに不可欠であると考えています。
リビアのカダフィ大佐は2003年12月、米英両国との交渉で核兵器開発計画の放棄に応じました。米国は見返りとして経済制裁を解除し、国交正常化も果たしました。しかし、11年の「アラブの春」の際に起きた内戦で、欧米は反対勢力を支援する軍事介入を行い、カダフィ政権は崩壊に追い込まれ、同年10月にカダフィ大佐は殺害されてしまいます。北朝鮮はこれを「反面教師」として、米国に対する不信感を解きません。
03年5月に朝鮮中央通信は、「国際社会の一致した反対にもかかわらず、米国によって強行されたイラク戦争は、国と民族の自主権を守るためには唯一、強力な物理的抑止力がなければならないという教訓をすべての主権国家に与えている。」と述べています。
北朝鮮は、「核保有国」であることを認めるよう米国に求めています。対等な核保有国という立場で軍縮交渉を行うならよいが、一方的な核廃棄を北朝鮮に求めるような交渉は受け入れらないと主張しているのです。北朝鮮が12年4月13日修正に憲法を修正し、自らを「核保有国」と新たに明記したことからも、その「本気度」がうかがえます。
金正恩は16年5月の第7回朝鮮労働党大会における事業総括報告で、「水素爆弾まで保有する、限りなく強大な国力を持つ今日のわが共和国は、国際舞台で帝国主義者たちによる核の脅威と恐喝、強権と専横をはねのけ、正義にかなう世界秩序を構築していく責任ある核保有国、主体の核強国として威容をとどろかせている」と述べ、自らが「核大国」であることを誇示しています。
ところで、そもそも「核保有国」になるとはどういうことなのでしょうか? 核兵器に関する国際的取り決めとしては、核拡散防止条約(NPT)があります。これは1970年の発効前に核兵器を保有していた5カ国(米国、ソ連→ロシア、中国、英国、フランス)には核軍縮交渉を誠実に行うように義務付け、その他の国には核兵器取得を禁じた条約です。NPTは「不平等条約の極み」と酷評されることもありますが、現在の世界秩序を形成する一つの柱となっていることは否定できません。
インドやパキスタンはNPTに加盟しないまま核兵器を開発・保有していますが、「核保有国」の地位を認められてはいません。北朝鮮はNPT脱退を宣言しましたが、国際社会が「核保有国」の地位を北朝鮮に与えることはあり得ません。