いまさら聞けない「北朝鮮問題」

Q.北朝鮮の金正恩体制は崩壊寸前なのでは?

A.ノー。希望的観測は捨てるべき。経済的には最悪期を脱し、堅固な独裁体制を築いている。

北朝鮮と言えば極度の貧困と飢餓のイメージがありますが、これは1990年代の最悪期の悲惨な映像が私たちの脳裏に焼き付いているからです。この時代には確かにマイナス成長でしたが、北朝鮮の経済は既に最悪期を脱し、2000年代に入ってからは回復基調にあります。もちろん高度な経済成長は望めませんが、一応プラス成長の時代に入っているのです。

冷戦時代の北朝鮮経済はソ連・中国・東欧などの社会主義圏の兄弟国からの援助に支えられていました。ところが冷戦終結により後ろ盾を失い、90年代の北朝鮮経済は最悪の状態となり、天候不順も重なって多くの餓死者を出しました。北朝鮮では、金日成死去(94年)後の経済危機の時代のことを「苦難の行軍」と呼んでいます。この時代を乗り切れたのは、本来の社会主義にはない「市場」に対する統制を緩めたことによります。これに中国からの輸入が加わり、経済全体は回復しましたが、その一方で貧富の格差が拡大するようになりました。

ここで北朝鮮歴代政権の「業績」を整理してみましょう。金日成は北朝鮮建国の父であり、「主体思想」の確立と46年間にわたる長期の統治を行ったことが「業績」です。そして、社会主義国では異例の世襲体制を確立しました。金正日は「革命の血統」の相続人として父親から国家の運営を引き継ぎました。ポスト冷戦時代という混乱の時代の中を、「先軍政治」によってとにかく生き抜いたことが彼の「業績」であると言えます。また、金大中韓国大統領と南北首脳会談を行うことにより、韓国内での北朝鮮のイメージを大きく改善させました。

金正恩は「先軍政治」を脱却し、経済建設と核開発を同時に進める「並進路線」を推進しています。さらに核・ミサイル開発の驚異的なスピードアップを実現するなど、ある意味では世界を驚かせるような「業績」を挙げていると言えるかもしれません。金正恩の統治スタイルは、自分以外の誰かに突出した力を持たせず、誰か一人をナンバー2と決めることはせず、短期間に昇格と降格を繰り返してポストを入れ替える、というものです。兄の金正男氏さえ暗殺するという、恐怖による統治を徹底させていると言えるでしょう。

金正恩のポストは国務委員長ですが、北朝鮮の憲法はこの国務委員長に対して事実上国家運営のすべてを掌握する絶大な権限を与えています。そのうえ北朝鮮には全人民を網羅する監視統制システムがあります。北朝鮮の国民は、小学校2年生から「朝鮮少年団」に入り、満14歳になると金日成・金正日主義青年同盟に加入します。その後は年齢や職業によって細分化された組織に加入し、死ぬまで何らかの組織に所属するのです。そして「生活総和」という定期的に行われる思想教育の行事で、他人の批判と自己批判を繰り返すことによって統制されます。反体制的な行動は、計画されたとしても必ず誰かに密告され、どのみち失敗してしまうのです。不満がネットワーク化されて反体制運動として爆発するのは極めて難しい状況にあるため、内乱による政権転覆が起こる可能性は極めて低いと言えます。

(魚谷俊輔UPF-Japan事務総長)

④政権転覆が起こる可能性は?

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