#9 米国による先制攻撃の可能性
魚谷事務総長の時事解説
#9 米国による先制攻撃の可能性
- UPF-Japan事務総長 | 魚谷俊輔
-
1964年生まれ。千葉県出身。東京工業大学工学部化学工学科卒。95年に米国統一神学大学院(UTS)神学課程を卒業。2000年に日本に世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)が創設されるにともない、事務次長に就任。05年より、国連NGO・UPF-Japanの事務次長、17年8月より同事務総長。
\ contents /いまさら聞けないシリーズ
米国は既に北朝鮮に対する先制攻撃の作戦計画を立てています。これは2015年に立てられた「作戦計画5015」と呼ばれるもので、北朝鮮が核を搭載したミサイルを韓国に向けて発射する兆候をつかんだら、25分以内に北朝鮮のミサイル基地など700カ所をすべて叩くと共に、特殊部隊が金正恩氏を拿捕または殺害して指揮系統を断ち切るという二段作戦です。
だからと言って、今の段階ですぐに米国が北朝鮮を攻撃することはあり得ません。それは米国といえども自衛権の発動以外に戦争はできないからです。単に北朝鮮が核実験を行ったことを根拠に米国が攻撃すれば、それは予防戦争(Preventive Attack)であり、国際法違反となります。しかし、敵が自分たちを狙って発射する兆候が見えたときの自衛の先制攻撃(Preemptive Attack)は可能です。したがって、北朝鮮が米国をまさに攻撃しようとしているという明らかな兆候がない限り、米国は攻撃できないのです。
一方、米国は北朝鮮に対する先制核攻撃の訓練は行っています。16年10月6日にネバダ州において、B2ステルス戦略爆撃機による模擬核爆弾の投下演習が行われました。投下された2発のうち、1発は地下基地破壊型であり、もう1発は地面制圧型です。地下基地が北朝鮮の核施設に対する攻撃を想定したものであることは明らかですが、地面制圧型の目的は何でしょうか?
それは北朝鮮が「攻撃された場合には、ソウルを火の海にする」と言っているので、38度線に配備された北の砲兵部隊を一気に蒸発させるためのものと思われます。それまで米国はこの種の訓練を公表したことはありませんでした。それをあえて公開した意図が何かと言えば、北朝鮮に米国の意志を見せつけることで、金正恩の冒険主義をけん制するためであると思われます。
北朝鮮が米国本土を攻撃可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に着手したことから、米国は韓国の同意なしに北朝鮮を攻撃できる状況になりつつあります。第1次核危機(1993〜94年)のときには、北朝鮮の空爆を計画したクリントン大統領に対し、韓国の金泳三大統領が強く反対しました。当時は米国本土を攻撃する能力が北朝鮮になかったので、米国が先制攻撃する際には、最も大きい利害当事国である韓国の同意が必要だったのです。
しかし、北朝鮮が米国本土まで攻撃できる力を持ったと米国が判断すれば、それは自衛のための先制攻撃となるため、韓国の同意なしに攻撃する名分を米国は持つようになります。これは米国による北朝鮮への先制攻撃に対する韓国の発言力がなくなることを意味します。