いまさら聞けない「仏教の基礎知識」

いまさら聞けない「仏教の基礎知識」 第26回

日蓮宗

text by 魚谷俊輔


鎌倉仏教の最後に現れたのが日蓮(1222〜1282)です。彼は安房国(千葉県)で漁師の子として生まれて、天台宗清澄寺(せいちょうじ)に出家したのでありますが、「法華経こそ真実の教え」という確信に至り、32歳で日蓮宗を開きました。日蓮というのは日本の仏教史においては大変カリスマ的で預言者的な人でありまして、最も迫害にあった人です。仏教では迫害のことを「法難(ほうなん)」と言います。彼は権威筋から迫害されることにより、何回も死にそうになります。しかし、彼は多くの法難に遭えば遭うほど、この道こそ正しい道であると確信していくという人で、日蓮のストーリはまるで信仰者の鑑のようです。彼は、自分こそ末法の世に現れる法華経の行者、上行菩薩の生まれ変わりだと確信するようになり、迫害されればされるほど自分の正しさを確信するようになります。彼は自分の受けている法難も、法華経の中で予言されていると解釈しました。

彼は『立正安国論』を著しますが、その内容は法華経を信じることによって初めて国が正しく立つんだということです。彼は非常に強烈な信仰者であったわけですが、同時に非常に排他的な人でもありました。法華経のみが人々を救うとして、念仏、禅、密教などの他の教えを激しく攻撃したわけであります。

日蓮宗のご本尊は「文字曼荼羅」と呼ばれるもので、掛け軸の真ん中に「南無妙法蓮華経」と書いてあります。日蓮宗の教えの特徴とは何かというと、浄土宗と比較することによってはっきりしてきます。浄土宗では阿弥陀如来の恩恵によって救われると教えるわけですが、それは来世で救われる、死んだら救われるということです。ですから、浄土宗の教えでは亡くなる瞬間に阿弥陀如来がやってきて自分の魂を救ってくれるという、極めて来世主義的な傾向が強いのに対して、日蓮は「南無妙法蓮華経」をとなえることで、現世で救済される道を説いたわけです。

そして日蓮宗では、個人だけでなく、国家や世界も法華経で救われるとします。日蓮が1260年に著した『立正安国論』は、法華経のみが国を護ると主張し、鎌倉幕府に対して「日蓮宗に改宗せよ!」と迫ったのでありますが、これは幕府から黙殺されました。日蓮が預言者的な人物であると言ったのは、当時、さまざまな天変地異や蒙古襲来などの国難が起こりましたが、「その理由は人々が邪宗を信仰しているからだ、自分の日蓮宗を信ずれば国は安泰だ!」と言った姿が、旧約聖書に出てくる預言者にそっくりだからです。内村鑑三も、この日蓮を代表的な日本人の一人に挙げています。

この日蓮系の教えの中から、日本の巨大な新宗教が出発しています。霊友会、立正佼成会、創価学会などがそうです。ですから、多くの新宗教を出したのもこの日蓮系の教えの特徴だと言えます。これらの新宗教は基本的には戦後の高度経済成長期に大きく教勢を伸ばした教団ですが、努力すれば自分の生活も世の中もどんどん変わって発展していくという当時の風潮が、現世における救済を説いた日蓮の教えと相性が良かったということは言えるかもしれません。
(魚谷俊輔/UPF-Japan事務総長)

㉖日蓮宗

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