いまさら聞けない「日本基督教史」

いまさら聞けない「日本基督教史」 第16回

キリシタン禁制と日本文化

text by 魚谷俊輔


徳川幕府による徹底したキリシタン禁制策の一つが、「宗門改」と呼ばれるものです。これはすべての国民に毎年定期的に各自の所属する宗旨をお寺(これを檀那寺と言います)の証明を添えて提出させることを言います。いわば全ての国民が仏教徒となりお寺に登録しないといけないということです。2番目が「寺請制度」です。これは、すべての人が檀那寺からキリシタンでないことを証明する証文を受けなければならないという制度です。3番目が「絵踏み(えぶみ)」です。毎年正月に、キリストやマリアの聖画像を踏ませることです。それから、5人組の連座制というのを組んでいます。これは連帯責任の相互監視制度でありまして、5人の組の中で1人でもキリシタンが出たら全体の責任ということで互いに監視し合う制度です。

最終的には、オランダ、中国、朝鮮を除く一切の外国との貿易・外交を禁止しました。これは、幕府にとっては貿易の利益を得られないという点では経済的にはマイナスなのですが、それ以上にキリスト教の影響力を日本から排除していくことの方が、統治の上では大事であると解釈されたのです。オランダはキリスト教国でありますが、宣教を一切しないという約束をして、長崎の出島に出入りを許されるようになりました。中国と朝鮮はキリスト教と関係がありませんから、これらの国々は除いて、一切のキリスト教国との間の貿易を禁止して、完全に日本からキリスト教をシャットアウトしていく政策を取ったということです。

このキリシタン禁制と日本人の精神性には非常に深いつながりがあります。いまある日本人の精神文化というものは、ほぼ江戸時代に形成されて、それが継承されていると言われています。その江戸時代の文化を作り上げたのが、まさにこのキリシタン禁制です。日本に伝わることわざや格言には、上に対して従順で、自己主張を戒め、大勢に従うことを求めるものが非常に多いです。たとえば、「泣くこと地頭(地域の有力者)には勝てぬ」「長いものには巻かれろ」「寄らば大樹の陰」「出る杭は打たれる」「沈黙は金、雄弁は銀」「物言えば、くちびる寒し秋の風」といったようなことわざですが、これらはすべて、「世の中でうまくやっていこうと思えば自己主張するのはやめなさい。お上に従って、あまり逆らわないようにするのがうまくやっていくコツだ」ということを教えているわけです。これは結局、自分の信仰を自己主張するのはダメだということであり、「周りの空気を読みましょう。みんなに合わせましょう」という日本の文化を形作ることになったわけです。

(魚谷俊輔/UPF-Japan事務総長)

キリシタン禁制と日本文化

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